T子さんは私に抱きついてきた。
私は身動きができなくなる。
彼女の頭が私の顎に当たっていたが、そのうち、顔が近づき、彼女は私に接吻しようとする。
首筋から顎、と場所がどんどん近づいてくる。
どうしたら良いだろう。
一階に男が三人いるのだ。
声を出したら気づかれてしまう。
一人はT子さんの父親だ。
見つかったら、大変だ。
私にはまだ冷静な部分が残っていた。
ここは私の部屋である。
それに、どう考えても、私に非はない。
だから、非のないところに煙は立たない。
違うな、上の字が違うぞ。
そんなことを考えてどうする。
ついに唇と唇がぶつかった。
息が苦しい。
鉢を押しつけられているので、胸も苦しい。
もはや話し合いは不可能だ。
どうやって意思表示をすれば良いのか。
赤ちゃんは、どうなったのか。
掘り下げて説明をしてほしいが、これでは、まったく説明どころではない。
長い接吻がようやく終わると、T子さんの口は私の耳に近づいた。
「赤ちゃんが欲しいのです」彼女は鳴いた。
「あ、ああ、そういうことですか…」私は領いた。
なるほど、ちゃんと最後まで話してから行動してもらいたいものだ。
案外、せっかちなところがあるのだな。
やはり、ミュージシャンは違う。
そうか、Sさんもミュージシャンだったのだ。
Sさんに、今度是非きいてみなくては。
女心というのが、どういうものなのか。
そういった経緯で、この朝は革命的だった。
一時間半後、私たちは朝ご飯を食べた。
T子さんは、澄ました顔でご飯や味噌汁をテーブルに並べた。
女性は凄いな、と私は感心したけれど、負けてはいられないので、私も澄ました顔でご飯を食べた。
IさんもKさんもTさんも、眠そうな顔だったけれど食卓についた。
昨夜と同じ臨時のテーブルである。
私は、勇気がわいたのだろう、ついに、Tさんに質問をする決意をした。
「そういえば、先日、ここで演奏していただいたとき、キーボードを弾いていた彼女にはびっくりしました」私は言った。
「ああ、Sさんね」Tさんは領き、それからにやりと笑った。
「あれ?知らなかったの?」「知りませんよ。
いつからですか?」「うちのバンドに来てもらったのは、つい最近だけれど、キャリアは相当だよ。
今まで、どこで活動していたんだろう」TさんはKさんの方を見る。
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